自治会の班会議
班会議→はんかぃぎー→ハンガリー
...無理やりハンガリーにこじつける必要もないのだけれど、ハンガリー備忘録というブログのタイトルからかけ離れすぎの内容であることをお許し願いたい。
ここは日本のど田舎。
1年ほど前、2019年の夏にハンガリーから戻ってきて住み始めたこの場所は、そう遠くない未来に廃村になるんじゃないかと心配になるような過疎地。
50名弱の住民から構成された小さな自治会は、平均年齢が70歳を超える高齢化に見舞われている。
そんな中、自治会の次期役員(会長、副会長、書記、会計)を選出するための班会議が開かれた。
十数名からなる班は1班から4班まである。
私が所属する班の班長さんは、長い髪をクルクルとお団子にしたふくよかなマダム。けっこうなご高齢である。
「私、会をうまく取りまとめたりできないと思うの。」
班のみんなが揃わないうちからマダムは自信なさげにソワソワしている。
班会議がゆるっと始まった。
愚痴のような意見が飛び交う。
マダムは持ってきた紙に鉛筆で一生懸命メモを取るが、自身が心配していた通り、一向に皆の意見がまとまる気配はない。
「そもそも役員が何をしてるか見えないのが問題なんですよ。まず現役員がやってることを書き出して、これはいる、これはいらない、と精査をするところから始めないと。」
しびれを切らしたちょい悪オヤジが声を荒げる。
「対外的なことを考えると、やっぱり会長は男性じゃないと厳しいわよね。」
ガールズと呼ばれている70代の3人娘のうち一番ちゃきちゃきしているお姉さまが、やんわりと自分に会長が回ってこないよう画策する。
お団子マダムの班長さんは、確認のためにと自分がメモした内容を読み上げるが「ちがうちがう!」と言われてしまい、激しく焦っているのがはた目にも明らかだ。
焦りとマスクで息苦しくなったのか、座っているのにふぅふぅ言っている。気の毒になってきた。
少し同情しながらぼんやり見ていたら、マダムはふぅふぅ言いながら、
「次の班長は若い方にお願いしたい。」
としっかりこちらを見ながら言ってきた。いや、今は班長の話じゃない。役員の選出だ。慌てて顔を背ける。
会が始まって一時間半が過ぎた。
「もうそろそろ、まとめに入らないと。」
ちゃきちゃき姉さんがマダムを促す。
息があがりっぱなしのマダム。
皆の意見に翻弄され、きれいなお団子にしてあったはずのマダムの髪は大きく乱れていた。
まるで相撲で大一番をとった後のようだ。
ふぅふぅ言うばかりで要領を得ないマダムにちゃきちゃき姉さんが、
「まずはやるべきことに線を引いて...」
と言った。
その場にいた者なら、それが「各役職がどんなことをすべきなのかを明確にし、やるべきことに線引きをする」という意味であるのは明白だった。
しかし、私は見てしまった。
マダムが自分のメモの該当箇所に鉛筆で文字通りしっかり線を引いたのを。
「でも今の会長さん、もう一年やるつもりって言ってたわよ。」
今まで沈黙を守っていた70代ガールズ3人娘のうちのひとりが、収束しかけていたところに全てを根底から覆すような内容を最後の最後でほうり込んできた。
かくして班会議は長くなってゆくのだと学んだ、2020年秋。